雑記「ぶえんぷろべーちょ。」

~ 「音楽」「旅」「本」「映画」を中心に、お腹に優しい雑記(備忘録)を綴ります ~

現代の冒険は日々の中にある。

石川直樹さんの講演を聞いた。
テーマは「撮ることで広がる世界」。


「カメラを持って日々を歩いていく」という行為は、何か新しいモノやコトを意識的に発見しようと働きかけてくれる。
それは何も海外や辺境に行かなくたって得られる感覚。
10年以上旅して来て、そのことに気づいたそうだ。
それを気づかせてくれたのが、カメラだった、と。


「今年も早かったなあ…」と感じるのは、新しいモノやコトを発見しようとする意識に対して自覚的じゃなかったから。


年齢を重ねれば重ねるほど、月日が経つのは早く感じる。
それは、新しさを感じる機会が無くなりつつあるから。


石川さんは、そう言う。


なるほど。
日々や日常の中にだって、意識的に、自覚的になれば、年齢に関係なく、どんなシチュエーションの中にも、何らかの新しさを感じ続けることができるのだろう。


石川さんの話を聞いたのは、およそ8年前ぶりだった。
『ライトニング』という雑誌の編集をしていたとき、鼎談のひとりとして参加してもらったことがある。
九里徳泰さん、大久保由美子さん、石川直樹さん。
冒険家・河野兵市さんが北極海上で遭難、その後に遺体で発見された。
同日、世界7大陸最高峰の最年少登頂記録を石川さんが塗りかえたーーそんなニュースが入ってきた。早稲田大学の4年生、23歳だった。
このふたつのニュースは、その後の「『冒険』のゆくえ」を知るうえで重要な出来事だと直感し、鼎談を開いた。


それまでは、危険な地域や辺境地帯、極地に赴くことが、たしかに「冒険」と考えられていた。
それが、河野さんから石川さんに「冒険」のバトンが渡されて以降、その概念は変わったと思っている。


石川さんを冒険家と呼ぶ人たちは多い。
メディアにとっても、分かりやすい肩書きなのだろう。
そう呼ばれることに、石川さん自身は違和感を感じるとたびたび公言しているが、どうやら説明するのが面倒なようで、とりあえず受け入れている。
しかしそんなバランス感覚が、いまのポジションを確立したのだと思う。


時代の流れにうまく乗りながら、大きな意味での「冒険」というフィールドで、石川さんは活動している。


8年ぶりに聞く石川さんの言葉たちは、惰性で過ごしてしまっているぼくの毎日に『新しさ』を与えてくれた。