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雑記「ぶえんぷろべーちょ。」

~ 「音楽」「旅」「本」「映画」を中心に、お腹に優しい雑記(備忘録)を綴ります ~

クリス・マッカンドレスと落合老人。

ショーン・ペンの映画『イントゥ・ザ・ワイルド』。
たった一度だけ、公開時に映画館で観ただけなのに。
少なからず、昔の自分と重ねて観た部分があったからだと思う。
今も時折、その映像を鮮明に思い出し、主人公=クリス・マッカンドレスを思い出す。


そんなとき、決まって思い出す人がもうひとりいる。
落合老人である。


つい十数年前まで、世間的には“若気の至り”として片付けられそうな、でもぼくの中では明確な計画として、「生涯旅をして生きていきたい」と本気で思っていた。
その計画の大きなステップとして、大学時代、学校を1年間休学して、北〜中〜南米大陸を丸々1年かけて旅をした。


最後の訪問国はブラジルだった。
サンパウロにある有名な安宿、ペンション荒木。
日本人バックパッカーの定宿。溜まり場。
そこで落合老人と出会った。


40年近くにわたって世界各国を旅し続けてきた落合老人は、バックパッカーの間で有名人だった。
彼の歩んできた人生は、当時のぼくにとって、ある意味で最高のお手本だった。
そんな彼に出会えたことが嬉しく、同室だったぼくは、ある晩無邪気に言った。


「羨ましいですよ、落合さんが。ずっと旅してきて。良い人生ですよね」


長い沈黙。
落合老人は黙った。
ようやく口にした言葉は、ゆっくりと、ひと言ひと言を噛み締めるように、


「寂しい人生だよ…。日本に帰ったって家族もないし友人もない。金貯めては海外に出て…その繰り返し。こんな人生、勧めないよ…」


落合老人からその言葉を聞かなくても、結局は時間の問題であって、どこかで気付いたんだろうと思う。
生涯旅をして生きていくなんて、そんなのオモシロイか? って。


でも、ぼくは聞いた。
実際に、そういう人生を歩んできた人から、聞いてしまった。


1年の旅から帰国したぼくは、大学に復学し、卒業後は当たり前のように働き出した。
やっぱり生涯旅をして生きていきたいーー卒業までの間に、そう思うことも、何度かあった。
けれど、そのたびに、落合老人の言葉、そのときの表情が思い出された。
そして、
「彼のような人生は歩みたくない」
そう、はっきりと、そのたびに思い直した。


クリス・マッカンドレスは、本当のところ、最期はどんな思いだったのだろうか。
楽しい人生だったーーそう言い切れたのだろうか。


クリス・マッカンドレスと落合老人は、ぼくの中で、どこか重なり合っている。
これからも、このふたりの存在は、ずっと鮮明に覚えていくのだろうと思う。


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